あの夏の季節が僕に未来をくれた
フワッと彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


体当たりするみたいに彼女は俺の腕の中に納まった。


背中に両手を回してギュッとしがみついてくる。


あの時と同じシチュエーション。


だけどあの時と違うのは、あの時は俺が彼女を抱き締めた。


今は彼女が俺を抱き締めてる。


もう本体はないはずの俺を逃がさないようにするみたいに力強く。


彼女が押し付けている胸の辺りが濡れているのを感じた。


泣いているんだ、と冷静にその姿を見下ろす俺がいる。


ちょっと、体を借りる時間が長すぎたのかもしれない。


体から離れてしまいそうな感覚に俺は焦った。


俺の胸で泣き続ける彼女を壊れそうなくらい抱き締める。


それから、彼女の顔を上に向かせた。


(頼む、もう少しだけ……

これが最期だから……)


やっと触れ合えたことが嬉しかったのか、彼女は照れ臭そうに微笑んだ。


俺はその愛しい人に生涯で二度目のキスをした。


そっと唇を離すと、彼女を自分から遠ざける。


「ごめん、時間がない

兄貴が起きちゃいそうなんだ……


すみれちゃん……ありがとう」


そう言ったと同時に俺の霊体は兄貴の体から、すっと抜けた。


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