あの夏の季節が僕に未来をくれた
あのとき……
俺たちは同じ女性に恋をした。
俺は無自覚だったけど、弟は体調が悪いくせにはっきりと熱を帯びた瞳で彼女を見ていた。
真っ青な顔には似つかわしくない眼差しで……
あぁ……こいつ俺と趣味が似てやがる……
そのときはそう思っただけだった。
幼さを残す笑顔も、真剣な表情で弟を介抱する姿も、年上なはずなのに可愛いなくらいの印象でしかなかったと思う。
まだ中学生だった俺たちと、どうにかなるような年齢でも職業でもないことはわかりきっていた。
だけど弟は俺みたいにそんな理由で諦めるようなやつじゃなかった。
思えば俺はまだ女性と体を重ねたことも、唇を重ねたことさえなかった。
だけど弟は俺の知らないところでいろんな女の子と遊んでいるようだったし、俺とは違ってもう“大人の男”になっていたようだ。
それが羨ましいとかそんなことは思っちゃいなかったけど、いろんな女の子に手を出して、泣かせたりしなきゃいいなとは思ってた。
嫌いじゃないだろうが、そこまで好きでもない相手と、何の躊躇いもなく体を重ねることが出来るあいつを嫌悪したこともある。