あの夏の季節が僕に未来をくれた
母はフッと弱々しい笑みを見せると一言だけ口に出した。


「だし巻き玉子……」


「だし巻き玉子?」


「そう、だし巻き玉子

お父さんと雅紀はあんまり好きじゃないでしょ?

だからあの子が亡くなってからは、朝出さなくなってたの

気づかなかったでしょ?

だけどね?今朝は違ったのよ……

お母さん、その姿見て思ったの

もしかしたらだし巻き玉子がなくてガッカリしてるんじゃないかって……

もし、ここにいるのが雅紀じゃなくて……あの子なら……

きっとこんな顔するんじゃないかって……

だから、急いで作ったの

それで喜んでくれたら、完璧にあの子なんじゃないかって……思ったから……」


確かに俺はそれほどだし巻き玉子が好きじゃない。


食卓に並んでなくても気付かないほどに……


あいつとは高校に入ってから食事を一緒にとることなんかなかったから。


あいつの好きな物がなんなのかなんて、俺は知らなかった。


しかも朝食となれば、余計にハードルは上がる。


例えば焼き肉とかハンバーグだったりすれば、メインなわけだから、少しは覚えてるかもしれないけど。


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