あの夏の季節が僕に未来をくれた
母の話を聞きながら、俺はこれまでの記憶を思い起こした。


佐伯のことにしろ、進路のことにしろ、確かに俺にとってプラスになるように動いてる。


だけどあいつの本当の目的は先生なんじゃないかって思いは拭えない。


あの保健室で、あいつは先生に何を伝えたんだろう?


俺が気がついた時の先生は、今思えばやっぱりおかしかった。


俺に先生として毅然と振る舞う傍らで、小さく肩が震えていたことも。


先生の顔が涙で濡れていたことも。


あの時は自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、先生の様子は明らかに不自然だったことに。

俺は今更ながらに気付いた。


「雅紀が信じられない気持ちはよくわかるわ

だけど、あの子はいつも……

生きていた頃からあなたに心配かけまいとしてたの

自分のせいで兄貴は甘えるのが下手になったんだって……よく言ってたわ

だから雅紀のことが心配で、今の状況になってたとしても、お母さんは納得できるのよ

あの子ならそれくらいやるだろうなって……」


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