あの夏の季節が僕に未来をくれた
だけどそれがあいつの抱える病魔と関係がないとは言い切れなくて、何も言うことが出来なかった。


人肌が恋しいのかもしれない。


自分が今、生きてる証を誰かに刻み付けたいのかもしれない。


弟の病気は死ぬようなものではなかったけれど、自ら死ぬことはあるかもしれなかったから。


俺を好きだと言う女にも手を出していたことはわかっていた。


だけど誘われるままにあいつと寝れるわけだから、顔が同じなら誰でもいいんだなと諦めにも似た冷めた気持ちでそいつらを見ていたっけ。


だからこそ驚いた。


中学生のくせに艶っぽい笑顔で、甘い言葉を囁いて、女を抱く対象としか見ていなかったあいつが、少年のような顔で頬を染めながら彼女を見ていたことを。


試験が終わり、二度目の保健室のドアを開けたときに見た、愛しそうに見上げる弟の顔を。


俺が入ってきたのに気づくと、もう帰らなきゃならないのかとばかりに、あからさまに残念そうな顔をしていたのを思い出す。


彼女はもちろん、そんなに年の離れた中学生が、まさか自分に恋心を抱いているなんて気づきもしなかっただろうけど。


< 20 / 248 >

この作品をシェア

pagetop