あの夏の季節が僕に未来をくれた
すみれちゃんをこの胸に抱き締めて。
彼女の温もりを感じられたと思ったのに。
それはあっという間に儚く散った。
俺はまたフワフワと実体のない魂となり。
すみれちゃんの傍に浮かぶだけ。
それは自業自得であって。
誰のせいでもない。
自ら命を絶った俺のせい。
実体があったなら涙を流していたかもしれないこの状況に。
俺は呆然としながら、すみれちゃんと兄貴の会話を聞いていた。
あんなに泣いてすがって俺を欲していたすみれちゃんは。
明らかに俺ではなくなったその人を見て、瞬時に悟ったみたいだった。
ほら、もう彼女は素の自分に先生の仮面をつけて、兄貴と話してる。
すみれちゃんとは呼んでくれないその唇を見ながら、俺じゃないことを確認するように。
兄貴が保健室から出ていって、扉が閉まると。
彼女はようやく先生の仮面を外して泣き崩れた。
(ごめん、ごめんね?すみれちゃん……)
こんなに近くにいるのに抱き締めて頭を撫でてもやれない自分を呪う。
兄貴の前では気丈に振る舞っていた彼女は糸が切れたように、ずっと泣き続けた。