あの夏の季節が僕に未来をくれた
言いたいことを全て吐き出したんだろう彼女は、握りしめていた携帯電話を持ち替えた。


それから大きく息を吐くと、携帯を操作し始める。


呼び出したのは、さっきの俺からのメール。


『削除しますか?』の問いに、すみれちゃんの指は一瞬だけ止まったけれど。


すぐにその指は器用に動いて、イエスのボタンを押した。


画面に現れた『削除しました』の文字。


それをしばらく見つめていたすみれちゃんは。


目をギュッと瞑って吹っ切ったように携帯をパタンと閉じた。


これで全部忘れられたんだと、自分に言い聞かせるように……


自分で忘れてくれと言ったくせに、いざすみれちゃんから決別の言葉を言われると、俺の焦燥感は半端じゃなかった。


そこにあった俺の存在は、呆気なく弾けて、パシャンと消えた。


すみれちゃんはもう天井を……俺の姿を……


見上げることなく、泣くまいと顔を歪めながら。


その場所からしっかりとした足取りで立ち去った。


保健室のドアが閉まる音が聞こえて、ようやく俺は我に返る。


思ったよりもずっと自分が傷付いていることに気が付いた。


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