あの夏の季節が僕に未来をくれた



朦朧とする意識の中、紙袋を手渡しながら俺を覗きこむ心配そうな顔。


余裕のない状態でのドキドキ感が、恋と勘違いしたのかもしれない。


いわゆる吊り橋効果みたいな?


紙袋を口に当て、ゆっくりと深く呼吸を繰り返すうちに、だんだんと楽になっていった。


いくぶん赤みの差した顔を、彼女の方に向ける。


今までの女たちがうっとりと俺に堕ちていった甘い甘い笑顔でにっこりと。


「よかった

だいぶ元気になったみたいね?

試験、ここで受けられるように上と掛け合ってくるからちょっとそこのベッドで休んでて?」


見事にそれはかわされて、俺は自分の笑顔に自信を無くした。


彼女は生徒を心配する養護の先生の顔を崩すことなく俺にそう言い残すと、急がなきゃ次が始まっちゃう、と慌てて保健室からで出て行った。


どうやら俺の悩殺スマイルが通用するのは未成年に限られているらしい。


だからなおさら欲しくなった。


あの笑顔を一人占めしたい。


走ってくれたのか、彼女がまた保健室に現れたとき、ハアハアと息を弾ませ肩を上下に揺らしていた。


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