あの夏の季節が僕に未来をくれた
さっきまで微笑していたその顔が、だんだん歪んで泣きそうになっていた。


きっと死んだって事実を押し込めていたのかもしれない。


それなのに、俺がそれをこじ開けて現実を突き付けた。


「私は養護教諭であり、彼の……彼女だったのに……

何にも出来なかった……

彼を……救ってあげられなかった……」


そう言いながら、彼女の瞳からはポロポロと涙が溢れる。


塞き止めていた物を全て吐き出すかのように、いつまでも涙は流れ落ちていく。


俺は彼女を泣かせるためにここに来たんだろうか?


――そうじゃない!


俺は彼女を慰めたくて来たはずなのに……あいつの彼女だと、ためらいがちに、でもしっかりと言ってみせた先生は、どんな気持ちだったんだろう?


弟を思って泣く先生の顔を見るのが辛くて、俺は何も声をかけずに保健室を後にした。


どこに行ってもどこにいても、弟の影がつきまとう。


俺は自分の存在がまるで無くなっていくような感覚に陥っていた。


今、自分が死んでも悲しむ人はいないんじゃないかと思うほどに……


なんでお前は死んじまったんだ。


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