あの夏の季節が僕に未来をくれた
母の泣き叫ぶ姿が見える。
奥には火葬される棺……
あぁ……またあの夢を見てるのか……
弟が死んでから、何度も見る夢。
母は渾身の力を込めて、弟の名前を呼んだ。
後にも先にもあんなに悲しい叫び声を聞いたことはない。
弟の魂に届いてればいいな……
そんな風に何だかとても冷静に、落ち着いた目で母の姿を俺は見ていた。
そしてまた……
ゆっくりと落ちていく……
「母さん、行ってきます」
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれる母の顔を、今朝はあまり見ることが出来なかった。
あの夢を見た朝はいつもそうだ。
何となく後ろめたいような気持ちになる。
あんなに悲しんでる母を見ながら、自分が同じように取り乱していないことが、そんな風に思うのかもしれない。
いつものように弁当を手渡されてもなお、ありがとうと小さく呟いて顔を見ずに受けとる。