あの夏の季節が僕に未来をくれた
玄関を出て、エレベーターで一階に降りると、駐輪場へと急ぐ。


自転車に乗って初めて、ようやく俺は大きく息を吐いた。


弟のいないあの家にいるのが、だんだん苦痛になっている。


誰もがお互い気を遣い、労りあう日々……


ムードメーカーだった弟がいないだけで、家の中は火が消えたようだった。


俺に弟の代わりは務まらない。


そう思うと胸が痛かった。


もし、死んだのが俺だったら……


弟はいとも簡単に俺のいない隙間を埋めてしまうに違いないのに。


自転車を走らせ学校に向かいながら、どんどん卑屈になっていく自分に嫌気がさしてくる。


《そんなことないよ》


ふいにそう声をかけられた気がして、俺は自転車を止めて振り返った。


シンと……静まり返る通学路には、誰も見当たらない。


首を傾げながら、気を取り直してまた自転車を漕ぎ出すと、また声が聞こえた。


《なんで……そんなに自分が嫌いなの?》


ハッとして辺りを見回す。


また誰もいない。


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