あの夏の季節が僕に未来をくれた
先生の言葉に不安を覚えてじっと顔を観察する。


その視線に気づいて、俺の言わんとすることを読み取ったのか、彼女はフッと顔を緩ませた。


「大丈夫よ?

あなたが思ってるようなことはしないから

フフッ、安心して?」


そう弱々しく笑いながら話す彼女が、まだ全力で弟が好きなんだと言ってる気がした。


「……俺も」


「えっ?」


「俺も今朝、あいつの……声を聞いたよ?」


「……声?」


「まあ、主に俺への説教だったけどね?」


笑みを浮かべて意味ありげにそう言うと、彼女は不思議そうな顔をしたけれど。


自分と同じように俺が夢を見たんだと思ったようだった。


それから窓の外に目をやりながら、誰に言うでもなく小さく呟いたんだ。


「いいなぁ……

私も声…聞きたいな……」


返事なんか求めてないってわかってたけど、何となく俺は聞いてしまった。


「夢……では、声聞けないの?」


弟に想いを馳せているような表情で外を見ていた彼女の目が、現実に引き戻されたようにこちらを向いた。


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