あの夏の季節が僕に未来をくれた
気がつくと俺は兄貴の体の中にいて、自由自在に動かせるようになっていた。


久しぶりの生きている感覚は、つい最近まで俺も感じていたもののはずなのに、やはり他人のものだからか少し違和感がある。


それでも何となく嬉しくて、腕を叩いたりつねったりして体のある状態を楽しんだ。


そんな俺を見て声をかけてきたやつがいる。


それが佐伯だった。


佐伯は自分の波長によく似ていた。


だから思ったんだ……


もしかしたら兄貴と仲良くなれるかもって。


兄貴が友達を作るのが下手なのは生きてる頃から感じていた。


俺の友達と仲良くなっても、どこか自分の友達ではなく、俺のおこぼれみたいに思ってるとこがあったのもわかってた。


きっと自分で作った自分だけの友達が、いなかったせいかもしれない。


たまたま友達作りが得意な俺のせいで、いつも一緒にいた兄貴からその機会を奪ってしまっていたから……


俺が死んで、邪魔者は消えたはずなのに、兄貴は以前よりも余計に孤立するようになっていた。


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