あの夏の季節が僕に未来をくれた
これでいい。


少なくとも佐伯は兄貴に興味を持ってくれたようだ。


今まで自分の殻に閉じこもり、誰も受け入れない態度だった兄貴に、話しかけるものはいなかった。


というより、存在自体も薄いものだったかもしれない。


だから、敢えて注目させた。


後は兄貴次第だ。


兄貴だって友達を作りたいって心のどこかでは思っていたはず。


だけど拒否されることを恐れて、自分を守るために、自分は一人でいいんだと思い込んでるだけなんだから……


《後は自分でなんとかしろよ?せっかくチャンスをやったんだから》


そう言ってみたけれど、相変わらず兄貴のシャッターは閉まってる。


だから俺は兄貴の体からスッと離れた。


またさっきのように傍で浮かびながら、事の顛末を見届けるために……


俺が抜けたことで兄貴は目覚めた。


そして不思議そうに、今自分の置かれてる状況を把握しようとしてる。


急に別人になったみたいな兄貴に、みんな首をかしげながら自分の席に戻っていったけど。


やっぱり佐伯だけは最後まで残って兄貴との距離を縮めようとしてくれていた。


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