あの夏の季節が僕に未来をくれた
母がなぜここにいるのかは想像がつく。


きっと弁当を届けに来たんだろう。


やはりあの時、戻るべきだった。


俺は今更ながらに後悔する。


案の定、母が「はい」と差し出したのは、思った通り弁当だった。


「ありがと……ごめん」


「こっちこそ、ごめんね?

渡すの忘れちゃって」


「や、俺も忘れてたし

朝も遅刻しそうだったからさ、仕方ないよ」


「でも間に合って良かった

まだ……買ってないんでしょ?」


母は俺の背中越しに購買をチラッと見ながらそう言った。


俺が買えずに空くのを待っていたのを見ていたのかもしれない。


「じゃあ、俺もう行くわ
昼休みなくなっちゃうから」


何となく母親が弁当を持ってきてくれたことが気恥ずかしくて。


俺はそう素っ気なく言って、母の顔も見ないまま教室へと戻っていった。


母の寂しそうな顔には、まったく気付かずに……


やはりあいつみたいにはうまくいかない。


弟なら……


きっと恥ずかしいなんて思わずに、友達に紹介する勢いで喜ぶんだろう。


だけど弟のように振る舞うには、まだ俺は子供だったんだ。


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