あの夏の季節が僕に未来をくれた



(まったく……


わかってんならもっとうまくやりゃあいいのに…)


兄貴の母への態度を見ていて俺はそう思った。


(あんな寂しそうな顔、させんじゃねぇっつーの!)


自分が寝過ごして弁当を忘れたくせに、学校まで急いで届けに来てくれた母にあの態度はない。


兄貴がそうなってしまった原因が自分にあることはわかってる。


だけどそれでも母にあんな顔をさせた兄貴に腹が立った。


(やっぱ、このままじゃ埒があかない……かな?)


佐伯の時みたいに、また俺の出番かもしれない。


確かに一番親に甘えたかっただろう年頃に、俺は病気を理由に親の愛情を独り占めしてた。


双子に生まれて、本来なら平等であるべきだったものが、そうでなかったことは否めない。


だから、兄貴は甘えるのが下手だ。


そして両親も兄貴を甘えさせるという行為をもう何年もしてこなかったせいで、どう扱っていいのかわからないのだ。


小さな頃なら少し餌をまけば食い付いてくることでも、思春期ともなればちょっとやそっとの餌じゃ釣られない。


お互いが歩み寄らなければ、黙っていたって距離は縮まないのに……


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