あの夏の季節が僕に未来をくれた
ふいに呼ばれて驚いたのか、母は慌てて写真を隠すと、手の甲でわからないように涙を拭った。


「雅紀?どうしたの?

こんな時間に……何か……用事?」


一生懸命笑顔を作りながら、そう訊ねる母に。


ほんとに兄貴だったら、また意固地になっちゃうような聞き方だな……なんて。


そう思ってしまうのは意地悪なのかな?


「うん、ちょっと話したいことあって」


そう言うと、母は驚いたように目を見開いて、俺を見た。


兄貴の姿をした俺を……


「……何かあったの?」

恐る恐る、探るようにそう言った母が、すごく動揺しているのが見てとれた。


きっと兄貴がこんな風に話があるなんて、言ってきたことがなかったんだろう。


身構える母を見ながら、フッと笑みをこぼすと、俺はソファーに腰を沈めた。


「うん、進路のことなんだけどね?」


そう言うと、母はようやく合点がいったように、顔を明るくして立ち上がった。


「お茶淹れてくるわね?
紅茶でいい?」


「あ、あぁ……うん

じゃあ紅茶で」


生きてる頃から、何か話をするときには、いつもこうして母は紅茶を淹れてくれた。


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