麗しの彼を押し倒すとき。
知りたくなるのです
「もー何で教えてくれなかったの」
今日一日で疲れ切った身体は悲鳴を上げていた。
机に突っ伏して、顔だけをキッチンに立つお兄ちゃんへと向ける。
その後ろ姿はやたらと楽しそうで、何かを炒める音に混じって鼻歌までこちらに届いた。
「ねぇ、お兄ちゃん聞いてる?」
「ん?」
白地の布にカラフルな水玉模様のエプロンをつけ、右手に木ベラ、左手にフライパンを持って私へと一瞬振り返る。
バターの良い香りが鼻をくすぐり、シスコン兄というよりも主夫に見えた。
「だからみんなの事だよ。お兄ちゃん私が勘違いしてるって分かってたんでしょ?」
「あぁ、それか」
「そう、それ」
私が身体を起こして少し問い詰めるように聞くと、柚羅は背を向けて逃げるように料理を再開する。
そんな逃げ腰な兄の後ろ姿に思わず頬を膨らませた。
そりゃ幼なじみを女だと、それも一人だけでなく三人もそう思い込んでいた私の脳みそが、一番悪いとは思う。
けれど昔からそう思っていたなら、きっとお兄ちゃんだって私が勘違いしてると気が付いていたはずだ。
まぁこれがただ単に八つ当たりだと言われれば否定できないけれど、知っていながらその事実を私に伝えなかったお兄ちゃんにだって責任があると思う。
「お兄ちゃん!」
私が少し大きい声を出すと、フライパンを返していた柚羅の肩がビクッと震えた。