麗しの彼を押し倒すとき。
「でもやっぱあんなに変わっちゃってたら、男って知ってても気付かないよ」
そう小さく呟くと、背を向けたままのお兄ちゃんが肩を揺らして笑う。
「柚季って実は気強いよなー」
「え?」
「気っていうか正義感っていうの? 昔から勝てないって分かってる相手でも気にせず立ち向かっていくだよ」
「……」
「で、負けて泣いてんの」
少しムッとなりながらも、小さい頃意地悪な上級生の男の子に歯向かって、よく泣かされてた記憶がよみがえる。
その度柚羅が助けてくれたんだけど。
「今でも柚季のそれって変わってないだろ?」
「……まぁ、」
「その正義感とか、意外と気が強かったりとか。 結局人間って何年経っても本質は変わらないんだよ」
調理が終わったのか優しく笑みを浮かべながら、お兄ちゃんはお皿とケチャップを持ってこっちへと歩いて来る。
「それはあいつらも一緒。変わった部分はあっても変わらないものもたくさんある。だから心配するな」
「お兄ちゃん……たまーにいい事言うね」
「いつも、の間違いだろ」
そう言って私の前に置かれたのは、ふっくらと黄金の卵に包まれたオムライスだった。
ほかほかと上がる湯気とバターの良い香りが食欲をそそり、お腹の虫がうずうずと騒ぎ出す。