麗しの彼を押し倒すとき。
「……お兄ちゃん彼女いないの?」
「え?…まぁ、今はいないな」
ふいに何となく気になって問うと、少し寂しそうな声が返ってくる。
私が知る限り運動神経もよくて、優しくて、料理も出来る。おまけに我が兄ながら整った顔をしていると…思う。
彼の唯一の欠点はそう、シスコンなのだ。
「このオムライスとか作ってあげる相手、見つかったらいいのにね」
「……柚季がいるからいい」
「お兄ちゃん、」
「なに」
「きもい」
「……」
「……」
「……柚季」
「なに?」
「兄ちゃんそれ結構傷付くんだぞ」
そう言ってわざとらしく悲しんだ顔をしたお兄ちゃんに、早く良い相手が見つかればいいなと思った。
こうして私の転校初日の夜は、色々な感情を生みながら更けていった。