麗しの彼を押し倒すとき。


「……お兄ちゃん彼女いないの?」

「え?…まぁ、今はいないな」



ふいに何となく気になって問うと、少し寂しそうな声が返ってくる。

私が知る限り運動神経もよくて、優しくて、料理も出来る。おまけに我が兄ながら整った顔をしていると…思う。

彼の唯一の欠点はそう、シスコンなのだ。



「このオムライスとか作ってあげる相手、見つかったらいいのにね」

「……柚季がいるからいい」

「お兄ちゃん、」

「なに」

「きもい」

「……」

「……」

「……柚季」

「なに?」

「兄ちゃんそれ結構傷付くんだぞ」



そう言ってわざとらしく悲しんだ顔をしたお兄ちゃんに、早く良い相手が見つかればいいなと思った。

こうして私の転校初日の夜は、色々な感情を生みながら更けていった。

< 106 / 162 >

この作品をシェア

pagetop