麗しの彼を押し倒すとき。


なんで。そう思う前に向こうが私に気づいて笑顔になる。



「柚季っちおっはよー!」


手を振りながらゆっくりと近づいてくる。

無邪気なその笑顔には申し訳ないけれど、間に合うとはいえ今の私はとても急いでいた。

気付いてないふりしてこのまま走り出してしまおう。ちょっとそう思った。


「みんなおはようじゃあね」


マンションから出てすぐ、なぜかそこにいた幼なじみ達に早口で挨拶を済まし、学校の方へと足を向ける。


「ちょいちょいちょっと待った!何で逃げるの」


しかしそれはすぐに波留くんに手首を掴まれたせいで、意図も簡単に止められてしまった。

そのままぐるりと方向転換させられ、まだ少し眠そうな幼なじみ達が視界に入る。



「逆に聞くけどなんでみんなここにいるの。っていうか早く行かないと遅刻……」

「柚季っちを迎えにきたんだよ」

「なんとなくそれはわかるけど……何で」

「昨日柚季っち足怪我してたじゃん?だから心配で迎えに来た。てことで一緒に行くよ」


手を引かれるようにして歩かされる。

何だかいいように丸めこまれた気がしないでもないけれど、今の私はとりあえず遅刻しないで学校に行くことが最優先だった。

昨日授業をサボってしまったこともあり、さっそくふなもっちゃんのブラックリストに載ってしまったかもしれない。

だからこれ以上問題を起こすことは避けたかった。

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