麗しの彼を押し倒すとき。
昨日椿が保健室のベットで、朝から昼まで寝ていた事を思い出す。
少しだけ波留くんと二人っきりでないことに胸をなでおろした。
「あ、柚季っち今俺と二人きりじゃないって知ってホッとしたでしょ」
「え!?してないしてない!」
「嘘だね」
「嘘じゃないよ!」
「こんな所も変わってないね」
「柚季っち嘘つく時、昔からここが一瞬寄るの知ってる?」そう付け足して、波留くんが私の眉間に指を当て軽く弾いた。
……し、知らなかった。
自分の眉間を押さえながら歩いていると、少し後ろを歩いていたなっちゃんが堪え切れないといったようにプッと吹き出した。
「ちょっとそんな笑わないでよ!」
「だって……その顔っ」
何がツボにはまったのか、私の顔を指差してこれでもかと爆笑する。
本当に失礼極まりない。
「…なっちゃんのバカ」
「なっちゃんって言うなバカ」
「なっちゃんはなっちゃんでしょバカ」
低レベルな争いに終止符を打とうと前を向くと、「お前が困るんだぞ」なんとも物騒な言葉が返ってくる。
「どういうこと」
何となく聞き流すことが出来なくてちらりと後ろを振り返ると、なっちゃんが勝ち誇ったように片眉を上げて憎たらしい笑顔を向けて来た。