麗しの彼を押し倒すとき。
今日は昨日のように転ぶこともなく、校門を通り抜けて校舎までの道を歩く。
けれど学校の敷地に足を踏み入れて数秒後、すぐにその違和感に気がついた。
何故か一歩、一歩と進むたび、私たちを避けるように広がっていく人の波。
そして四方八方から感じる、私を射るような鋭い目線。
明らかにこの場で私たちだけが普通とは違うものとして見られているのだと、すぐに分かった。
「あ、そう言えば波留、梓がマンガ返せって言ってた」
「え!まだあのマンガ読んでないんだよね…」
凪ちゃんも椿も棗も波留くんも、この光景に気付いてはいるだろうけれど、特に触れることなく会話をしながら進んでいく。
それはもうこの光景が日常になっていることを証明しているようで、何だかとても激しい目眩がするようだった。
…だめだ、この人たちといるとやっぱり話題になりすぎる。
私の求めている平和な日常とはかけ離れてるんだ。
「ごめん私先に行ってる!」
慌てて彼らの方へ振り向きそう言って、早歩きでこの場を去ろうとした。
しかし私の足を止めたのは、意外にも呑気な凪ちゃんの声だった。
「柚季、待って」
「な、なに」
少し歩を進めた私のもとへ近づくと、またあの何考えてるかわからない表情でこっちへと手を伸ばしてきた。
その手が頭に触れ、髪を撫で、なぜかとても恥ずかしくなる。
突然の出来事にされるがままになっていると、くすりと笑った凪ちゃんが私の顔を覗きこんだ。