麗しの彼を押し倒すとき。



前方安全確認、異状なし。

左右も……異状なし。


放課後の下駄箱前。私は隠れるように身を小さくしながら、その場で指差し確認をしていた。

結局6限目は波留くんも椿も授業をサボっていて、私の努力が実ったのかあれから幼なじみ達と遭遇することはなかった。


別にみんなのことが嫌いなわけじゃない。

ただ私の平和のために、少しの間距離を置かせてもらうだけだ。



「このまま…今日は家に……」

「なにやってんの?」

「わぁ!」


突然肩に置かれた手と背後から聞えた声に、びくりと身体が震えた。

それは向こうも同じだったのか、掴まれた肩から相手の震える手の感覚が伝わってくる。



「…び……っくりした」

「へ?お、おーた?」

「わりぃ、そんな驚くと思わなかった」


恐る恐る振り返ると、申し訳なさそうに眉を下げたおーたの姿があった。

今日一日、幼なじみの彼らから逃げることばかり考えていたからか、予想外のおーたの登場に少しほっとする。

けれどこの一瞬で理解した。やっぱり彼らと遭遇する可能性のある学校からは、一刻も早く抜け出した方がいいのだと。


「ごめんおーた私ちょっと急いでるのだからバイバイ」

「え、おい…」


息継ぎも無しに早口で捲し立てた私は、おーたの返事も聞かずにその場を後にした。


「一緒にかえ……らないんだね」


まだ軽く右足を引きずる私の後ろ姿を、彼は呆気にとられた表情でただ見つめていた。

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