麗しの彼を押し倒すとき。
最初はその光景に、男だけど可愛い顔した棗に我慢できなくなって、このゴツい男が言い寄っているのだと思った。
何かしらの間違いは、人間誰だってあること。
男が男を好きになることだって時にはある……と思う。
驚きはするけれど、私はどちらかと言うとそういうのには理解がある方だと思う。
だから見て見ぬ振りして通り過ぎよう。そう、思っていたけれど。
『お前分かってんのか』
決して好意を寄せてる人間には与えないような言葉を、男が敵意むき出しで吐いたもんだから、びっくりして立ち止まる他なかった。
よく見ると男が棗にしていたのは、流行りの壁ドンなんかじゃなかった。
その手は棗の胸倉を掴んでひねり上げ、壁へ無理やり押し付けている。
何より2人の間に流れる空気は最悪なもので、一触即発といった言葉がぴったりだった。
「ていうかそっちが何かしたんじゃないの? 別にお前らに手を加えたところでこっちにはメリットないし」
逃げることもできずにその場に佇んでいると、棗が興味なさそうに口を開いた。
あんな強面の男に壁に押しやられているというのに、こんな時でも彼の言葉にはトゲを感じるから大したもんだと思う。