麗しの彼を押し倒すとき。
この少し甘い匂いはなっちゃんの香りだろうか。
支える腕が予想外にたくましくて、可愛くても女の私とは違うと訴えてくる。
「ご、ごめんね勝手に連れてきちゃって…」
あまり見ないその真剣な表情に謝罪すると、より一層なっちゃんの顔が強張った。
「そんなことはどうでもいい!」
「…え?」
「自分がどれだけ危険なことしたかわかってる?」
「……ゔ、」
「あいつに何かされたらどうすんの?」
「えっと…」
「何を血迷ったか知らないけどさ、」
「……な、なっちゃん」
「一応そんなんでも女なんだし……」
「あの……もしかして心配してくれたの?」
「……………そんなんじゃない」
たっぷりの間を置いて、なっちゃんが毒を吐き私を腕から解放する。
「なっちゃんて呼ぶなって言っただろ、バカ犬…」
顔を背けてしまったけれど、その耳が赤いことからきっと図星なんだと思った。
……口は悪くなってしまっても、昔の優しさは変わってないんだ。
距離を取るように歩き出した彼に面白くなって近づくと、もう平常心を取り戻したようでその目はウザそうに私を映し出す。
「……やっぱり、なっちゃんはなっちゃんだよ」
「何それ…あんたはやっぱり阿呆だね」
「ひど!」
「…で、何であんな無謀なことしたの」
不意に立ち止まって私を見下ろしたなっちゃんがそう言ってため息をつく。
私の行動を責めるというよりは、単純に理由が聞きたいようだった。