麗しの彼を押し倒すとき。


凪たちに比べるとなっちゃんは背が低いと思っていたけれど、それでも私と5センチくらいは差ができる。


「……何となく、なっちゃんが危機なんじゃないかって思ったら勝手に身体が動いてた」


その身長差に少し追い詰められた気分になって、ボソボソと唇を尖らせながら口を開いた。


こんなこと聞いて何になるんだ。

私はそう思ったけれど、なっちゃんにとっては重要な情報だったらしい。

なぜか口元に笑みをたたえ、満足したように歩き出す。



「ねぇなっちゃん」

「なに」

「何ってこっちが聞きたいよ。自分だけ色々解決したみたいな顔して……」

「まあね」

「ずるい…私だって聞きたいことたくさんあるのに」


そうやっていじけると、なっちゃんが今まで以上に優しい表情で私を見ていることに気がついた。

不意を突かれたせいか、一瞬の出来事にも関わらず心臓が不整脈を引き起こしたかのように暴れ出す。



「勝てるわけない相手でも……立ち向かって行く」

「へ?」

「柚季はそういう子だったね、昔から」


くすりと笑ってまた歩き出したなっちゃんの表情は、再開してから初めて見せる顔だった。

楽しむような、懐かしむようなその姿に嬉しくなって、なっちゃんに駆け寄ると顔を覗き込む。


「仕方ないから柚季だって認めてあげる」


そう憎たらしくなっちゃんに呼ばれた名前は、彼の中で昔の柚季ちゃんと繋がったような気がしてくすぐったい気持ちになった。

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