麗しの彼を押し倒すとき。
「ねぇなっちゃん」
「今度はなに」
「めちゃくちゃに走ったから、ここからの帰り道わかんないんだけど…」
「……ほんと、そういうボケたとこは昔から全然変わんないよね」
その日の帰り道、毒を吐きながらもなっちゃんは家まで送ってくれた。
何故か聞きたかった言葉は、柔らかくなって昨日より角の取れたなっちゃんを見ていると、口に出すことが出来なかった。
きっとその話題を出すとなっちゃんの可愛い顔が、般若に早変わりすると思ったからだ。
「なっちゃん、なっちゃん」
「なに」
「なっちゃん」
「だからなに…」
「もうなっちゃんって言うな!…って怒らないんだね」
私が笑いながら言うと、なっちゃんの顔が恥ずかしそうに少し染まった。
「別に……好きにすればいいんじゃない」
それだけの言葉でこんなにも、なっちゃんとの距離がぐんっと近づいた気がするから、本当に不思議だ。
「ふふ…ありがとなっちゃん!」
私が笑うと少しだけど笑顔を返してくれる。
あれだけ騒がれるのは嫌だと思っていたのに、結局私が選んだのは彼らと関わることだった。
何故かこの時は、彼らとの関わりが無くなることの方が私にとって辛いことのように思えた。