麗しの彼を押し倒すとき。

友達は強面集団




「あー腹減ったー!」


4限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。それに合わせるように、続々と生徒が連なって教室を去って行く。

この時間になると、だいたいの目的地はみんな一緒。食堂へと直行して限定のカツカレーでも食べるんだと思う。



「はぁ……」


気がつくと小さな溜息が漏れていた。

今日も憂鬱な時間が始まったな。なんて思いながら、教科書を鞄にしまうと代わりにコンビニの袋を取り出した。

相変わらず友達のできない私が、登校前に寄ったコンビニのレジ袋を提げて向かうのは、例のあの場所。


波留くんと椿は今日もサボりなのか、朝から教室にいなかった。

それどころか昨日は迎えに来たくせに、今日の朝、幼なじみの面々は私の家に現れなかった。

おかげでとりあえずは平和な一日の始まりを迎えたけど……ちょっとさみしい。


なんて、そんな事口にすると波留くんあたりがしつこく聞いてきそうだから、口が裂けても言えないけれど。


私は鞄をかけると、保健室に向かうため立ち上がった。


「柚季」


その瞬間、短く呼ばれ驚いた。

今日初めて名前を呼ばれた!と少し感動してしまったところで、この学校で私を呼び捨てで呼ぶ人間は、彼らくらいしかいないと気がつく。



「おい、ボケっとするなボケ犬」

「……なっちゃん」


案の定、振り向いた先にはドアにもたれるようにして、今日も甘い棒キャンディーを口に咥えるなっちゃんがいた。


< 127 / 162 >

この作品をシェア

pagetop