麗しの彼を押し倒すとき。
「ちょっと…どこ行くのっ!」
どうにか踏ん張ってなっちゃんから逃げようと試みたけれど、可愛らしくてもやっぱり男。力の差で簡単にズルズルと引きずられてしまう。
廊下に出ると周りにいた生徒はびっくりしたように停止して、私となっちゃんの姿をその目で追いかける。
「……つ、椿達に用があったんじゃないの?」
抵抗しながらも言った私に、なっちゃんは呆れたように足を止め振り返った。
「バカ、お前だよ」
「……何が?」
「柚季に用があったんだよ」
不意を突かれた言葉に間抜けな表情を向けると、「じゃなきゃこうして、連れ出したりしない」そう付け足したなっちゃんが、もう一度私の手を引き歩き出した。
「それに、まだ友達いないんでしょ?」
「ゔ……」
図星を突いたなっちゃんのストレートな言葉が、容赦無く私の傷口をえぐる。
そんな私の姿に、なっちゃんはより一層楽しそうに笑った。
「……まだ作ってないだけで、これからたくさん友達作るし!」
「作るじゃなくて、作れないの間違いでしょ」
人の不幸を笑ってからかうなんて、本当どうかしてると思う。
だけどなっちゃんの言葉も間違ってはいないから、それ以上強く反論できなかった。
「いいじゃん、どうせお昼一緒に食べる人いないんでしょ?」
「……まぁ、今は」
「だったら俺らに付き合ってよ」
そう言ったなっちゃんに連れて来られたのは、あの旧校舎にある3-Eの教室だった。