麗しの彼を押し倒すとき。


忘れられてたりしないだろうか。

そんな事を考えつつ、学校までの道を歩く。

今回は両親の海外行きと引っ越しで忙しく、手続きが遅れてこんな時期になってしまった。

少しの期待と不安。新しい環境に身を任せる時の感覚はいまだにちょっと慣れない。

桜の香りと微かに夏を感じさせる香りが入り混じり、ふわりと鼻孔をくすぐった。


と、同時に小さい違和感を感じ、その場で足を止める。



「ん?……道、間違えた!」


本当は曲がらないといけない通りをを2本も過ぎたところで、やっとそのことに気がついた。

いくら元住んでいたからと言って、9年もたてば結構街並みも変わる。

それに幼い記憶はどうも身長が低かったせいか、同じ街でも目線が違うだけで全く知らない場所に見えてしまうようだった。



「……喫茶、モンブラン…?」


最近出来たのか、9年前には無かった可愛らしいカフェに首を傾げ、すぐに引き返そうと踵を返し歩きだす。

でも私の足はまるで金縛りにあったかのように、そこから一歩も動けなくなった。






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