麗しの彼を押し倒すとき。
「なんでこんなとこに……?」
なっちゃんに聞いた声は、自分でもわかる位引きつっていた。
初日にこの部屋の奥で、凪を押し倒してしまったという衝撃が、トラウマとなって蘇る。
「とりあえず入って」
そう目の前の扉が開かれると、中の状況を確認してやっぱり引き返したくなった。
「あ、柚季っちー!待ってたよー!」
部屋の中にいた波留くんが、嬉しそうに私へと手を振る。その光景を拒否するかのように、私は今開かれたばかりの扉を静かに閉じた。
やっぱり今からでも遅くない。
保健室に行って、桃子先生と雑談しながらお昼を済まそう。
くるりと方向転換した私の肩を、なっちゃんがまるで許さないよ、と言うように重量をかけて掴む。
「いきなり扉閉めるなんて、柚季っちひどくない?」
そして再び部屋の中から現れた波留くんに、私は完全に逃げ場を失った。
渋々部屋の中に足を踏み入れると、凪と椿もいて幼なじみが勢揃いしている。
ふと視線を感じて横を見ると、初日にいたあの厳つい剃り込みの男と目が合って、思わずぐりんと不自然な具合で目を逸らしてしまった。
「な、な、なっちゃん!何であの人あんなに私のこと睨んでんの!」
すぐさま隣にいた棗に助けを求めると、これまた楽しそうに笑って、「さぁ……柚季が気に食わないんじゃない?」なんて、あっさり私を見捨ててぬかしやがる。
冗談じゃない。
私があいつに何をしたって言うんだ。