麗しの彼を押し倒すとき。
「……っ」
目の前に広がる赤の光景。
血に染まった、男達。
ざっと見て5、6人だろうか。苦しそうに顔を歪め、呻き声をあげている。
今まで映画やドラマの映像でしか見たことないような光景に、緊張で唇が渇くのが分かった。
警察、救急車。脳裏に浮かぶ文字に情報を求めて視線をずらすと、その中である違和感に気がつく。
一人だけ、周りの男たちを興味なさそうに見下ろして、その場にたたずむ姿。
ミルクティー色の髪に、ナチュラルなショートがよく似合っている。
殴られたのか、彼は親指で唇の端に付いた血をぐいっと拭き取ると、私に気付いてそっと視線を向ける。
ざっと風が吹き、もう沢山散ってしまった桜をまきあげた。
その瞬間、なんて綺麗な人なんだろうと思った。
男の人に綺麗、だなんて。
でも本当にそれ以外の言葉が見つからない。