麗しの彼を押し倒すとき。
どくん、どくん。
身体の血液が暴れ出し、自分の鼓動がおかしくなったみたいに響いて聞こえる。
私はバカだ。バカだけど、自分の犯した失態を後悔してももう遅い。
「こんなとこで何してんの?」
彼に馬乗りになり、派手に床へと押し倒している私にもう一度声が掛かった。
確かにこの光景を傍から見れば、私は男子校生を襲うただの淫乱女子高生だ。
早くこの状況をどうにかしないと。
そう思うのに、予期せぬことが起きたせいで身体が固まって動かない。
カーテンの隙間から洩れた光が、彼のワイシャツの隙間から見える肌を照らす。
きめ細かくて、透き通るように綺麗な肌。
くらり、何だか目眩がした。
さらにそんな私を追い詰めるように、するりと腕が回ったかと思うと、そのまま彼が私の腰をぐっと引き寄せる。
「…わっ…なにっ」
「ちょっとじっとして、柚季(ゆき)」
「え?ちょ、離して…」
急に抱き寄せられバランスを崩した私を、逞しい腕が支えた。
首元に吐息がかかり、くすぐったい。
「…っ……」
「……やっと会えた」
「…は?」
変な声が漏れそうになって身をよじって逃げようとすると、そんな言葉が聞こえた。
ヒザが痛い、ついでに腕も痛い。何より、この状況が一番イタイ。
耳元で聞こえる声が妙に色っぽくてこそばゆくて。
その瞬間自分の置かれている立場を思い出して、また顔が熱くなるのが分かった。