麗しの彼を押し倒すとき。



「桐谷さんって女子校から来たってほんと?」

「う、うん」


どこからそんな情報洩れたんだ。


突っ込みたい気持ちを押さえ、なんとか笑顔で返しながら、机のまわりに集まる人間の顔を見回す。

一限目が終わり、授業の合間にある十分間の休憩に入ると、私の机の周りはまるでタイムセールを狙う主婦達のように人でごった返していた。

その光景が影響してか、教室の外でも窓から身を乗り出して、この騒ぎの根源を突き止めようと奮闘する生徒であふれ返っている。


……それも、なぜか男ばっか。



「桐谷さんって兄弟とかいるの?」

「えっと…兄が一人」

「ねぇ、柚季ちゃんって呼んでいい?」

「……うん」

「じゃあ柚季りんは?」

「…うん」

「じゃ、ゆきっぺ」

「……何でもいいよ、もう」


矢継ぎ早に飛んでくる質問の数々に、何度も返したことのある言葉で答えていく。

目の前の暑苦しい光景に苦笑いしながら、逃げられない状況に息苦しくなった。

どこへ転校しても、聞かれることは大して変わらない。大抵いつもこうして、同じような事を答えて来た。


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