麗しの彼を押し倒すとき。
「じゃあさ、彼氏とかいる!?」
かなり悔い気味で聞かれたせいか、声に圧倒されて一瞬黙ってしまったけれど、すぐに「いない」と返す。
「「おぉ~」」
「え?」
…何その反応。
なぜか感心されたような、なんとも言えないような声が一斉に返って来た。
びくっと肩を震わせると、たくさんの期待に満ちた表情が私を迎える。
「な、なに?」
「いやー!マジか!」
「……何が?」
「柚季ちゃん期待裏切らないねー!」
「……へ?」
「待っててね!柚季りん!」
だから何を待つの!
あまりの威圧感と彼らの鼻息の荒さに、叫びたくなる衝動を押さえていると、急に廊下が騒がしくなった。
さざ波のように野次馬の声を巻き込み、だんだんとそれは近づいて来る。
「でさー俺は言ったんだよ。お嬢さん大丈夫ですか?って」
「お前絶対話し盛ってんだろ、それ」
「いや、マジだって」
げらげらと笑いながら、声の主は教室へと入って来たようだった。
徐々に近づいて来るその声に、何だか聞きおぼえがあるような気がして眉をひそめる。