麗しの彼を押し倒すとき。
「で、どんな子?」
「あー。稀に見る綺麗な子だった」
「へぇ……てか、またお前の毒刃にかかんのかよ」
「あーそうそう、丁度こんな感じの黒髪の……って、柚季っち!?」
突然自分の名前を呼ばれて驚き振り向くと、そこにはつい一時間ほど前に知り合ったばかりの姿があった。
「波留くん!?」
びっくりして大きい声で相手の名前を呼ぶと、教室内がざわつくのが分かった。
…しまった。
思わず“波留くん”って言ってしまったけど、ここは“水瀬くん”って呼ぶべきだった。
いや、もうただの編入生でしかない私と、彼が知り合いだという時点でこうなるのは目に見えていた。
先ほどの校門での騒がれ方からして、彼が何かしらこの学校で影響力を持っていることは分かっていたのだから。
あぁ…ほら、もうすでに女子の目が痛い。
「えーマジで柚季っちじゃん!何してんのー?」
「波留くんこそ…」
「俺? だってここ俺の教室だし」
そのまま私の左隣まで来ると、さっきまで開いていたあの席へと腰を下ろす。
こちらに身体を向けて「ここ俺の席」と、笑った彼は私の周りを見回すと、少ししてからその笑顔をといて、何かに気づいたように目を丸くする。