麗しの彼を押し倒すとき。
「って、まさか柚季っちのクラスってここ!?」
「……そうみたい」
「マジで!めっちゃ嬉しい!」
「…って、わ! 波留くん!」
勢い余って椅子を倒しながら立ち上がった彼に、ぎゅっと抱きつかれた。
ちょっと!このままじゃこのクラスの女子全員に嫌われる!
そう叫びたくなるほどの衝撃に、ぐいっと波留くんの顔を押し返す。
それでもなお私の方へと近づいて来る彼と必死で攻防戦を繰り広げていると、それまで傍観していた男の子達の一人がうんざりしたように口を開いた。
「何だよ波留ー。もう手ぇつけたのかよ」
その一言に私たち二人の動きがピタリと止まる。
教室中がごくりと息をのんだ。
私が言葉の意味を理解する前に、その手を離したのは波留くんだった。
「まっさか。さすがの俺でもこんなまっさらな子をいきなり汚したりはできないって!」
呆れているような周囲に対し、大袈裟に笑う彼へと注目が集まる。
何の話か全く理解できていなかった私は何となくその場に取り残されたようで、隣に立つ波留くんを見上げた。
「……そうだよな。いくら波留でも柚季ちゃんはそーいうタイプじゃないよな」
「うん。俺は柚季りんを信じる」
微笑ましい表情を私に向けながら、勝手に繰り広げられる会話についていけずにいると、そっと肩に手を回される。
触れられた肩の感触に顔を上げると、悪戯に笑う波留くんがいた。
「まぁ、いきなり汚しはしないって言っただけで、これから仲良くしようとは思ってるけど」
語尾にハートでも付くようなテンションでそう言い切った彼に、今度は周囲の男の子たちだけでなく、教室内で傍観していた女の子までもが騒ぎだす。