麗しの彼を押し倒すとき。



今日は何だか男の子とばっかり喋っている気がする。


授業中、何となく左隣にいる波留くんを見ながら考えていた。



「ねぇ波留ー。明日どーしよっか?」

「うーん。じゃあさ、みきてぃがこの前見たいって言ってた映画いこーよ」

「え!いこいこ!あの映画超見たかったんだけどね、波留と行きたかったから我慢してたの!」


楽しそうに女の子と話している波留くんを横目に、頬杖をつきながらふぅ…と溜息を吐いた。

今まで女子校で男の人と話すことが少なかったから、そう感じているかと思ったけれど……やっぱりそうだ。

この学校に来てから、一度も女の子と言葉を交わしていない。


思わずじっと波留くんの横顔を見つめていると、不意にその顔がこちらに向いた。

視線が交わり少し恥ずかしくなって瞼を瞬かせると、波留くんがゆるく口元を持ち上げにっこりと微笑む。

だけどその頬笑みが長く向けられることはなかった。



「ちょっと―波留。私とはいつ遊んでくれるのー?」


それまでおとなしく前列で座っていた女の子が、後ろを振り返り波留くんに笑いかけると、それとは比べ物にならない厳しい目つきで私を睨みつける。


そんな怖い顔しなくても。


波留くんに向けられている笑顔とのあまりの差に苦笑いを返すと、ぷいっとそっぽ向かれてしまった。


早くも一日目にして終わった、私の新生活。


私はけらけらと横で談笑を続ける波留くんの方を見ると、もう一度その横顔に溜息を落とした。



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