麗しの彼を押し倒すとき。
「…疲れた」
何だかこの一瞬でとても体力を使った様な気がして、部屋の真ん中に置いてある大きなソファに倒れ込んだ。
私を出迎えるよう深く沈んだソファに、思わず安堵の息が漏れる。
ぐるりと身体を反転させて仰向けになると、カーテンから洩れた光に目を細めた。
普通の窓とは異なり意図的に光を取りこむように作られているのか、随分取り付けられてる位置が高い窓だな、とぼんやり考える。
何となくその窓を見つめていると、不意にあることに気がついて、
「あっ!」
自分でも少し驚くような突飛な声を上げた後、私は勢いよく起き上がり一目散にその窓へとかけ寄った。
…今の内に逃げ出そう。
さっきはあまりの驚きに肝心な事を忘れていたけれど、この部屋の外には私の人生とは決して交わることの無いような、厳つい人間達が鎮座している。
もちろん、真っ向勝負で表から出ていくのも有りだとは思う。
けれど人生真正面からぶつかっても、上手くいかない事はいくらだってある。
でも諦めずに探せば、チャンスだって同じ数転がってるもの。
幸運にもあの彼だって今この場にいないし、このチャンスを逃してしまえば間違いなく私は袋の鼠だ。