麗しの彼を押し倒すとき。


つま先で立って、高い位置にある窓枠へと手を伸ばす。

女にしては身長が高いため、今まで大抵のものには不自由なく手が届いていたけれど、この窓の高さは予想以上に強敵だった。

いくら背伸びをしても、飛び跳ねてみても、後少しが届かない。



「どうしよ…」


一度諦めて顎に手を当てながら、なんとなく部屋にある物を見回した。

ぐるりと一周見回してから、ある一点が気になってもう一度視線を戻してみる。


そうだ、あの椅子!


私の視線の先には、パソコンが置かれたデスクのそばの椅子と共に、掛けられた彼のブレザーがあった。

部屋の窓とは正反対の場所にあったデスクチェアを取りに行くと、ブレザーをソファに置き、さっそく窓の下へと移動する。

くるくると回転するデスクチェアは足場にしては少し頼りないけれど、これがないと私がこの場を脱出するのは不可能に等しい。

とりあえずチェアのクッション部分に足を乗せてみると、無理でもなさそうなので両足を乗せ上がってみる。

しゃがんでいた状態からバランスを取って足を延ばしてみると、一気に目線が高くなって景色が変わった。

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