麗しの彼を押し倒すとき。
First memory
突然ですが
「柚季、悪い。父さん次はパリだ」
特に変わりようのない朝、父がコーヒーをすすりながら言った。
日常は、こうして突然去ってゆく。
正直、今回が初めてじゃなかったし。
むしろもう慣れっこだったし。
去年だって、この慣れない何もない田舎のような場所に越してきて、それなりに上手く過ごしてきたつもりだった。
小学2年の時から、商社マンの父のせいで転勤族に仲間入りして、ずっとこんな生活。
しょうがないことだし、これが普通だと思って生きて来た。
でも。
「パ、パリぃー!?」
油断していた。まさか海外まではないだろう、なんて。
それも今の時代で最速の移動手段である飛行機を飛ばしても、日本から半日以上かかる国、フランス。
「そう、パリ」
頭を抱えて叫んだあたしに、なんとも緊張感の無い声が返される。