いちご大福
うす曇り
「祐也~?帰ろー」
最近は、梅雨もあけて、夏の暑さも本番に近づいている
退院からそろそろ一ヶ月
あれからは特に何もなく、平和である
「ごめん!今日ちょっと帰れないわ」
祐也は手を合わせて謝った
「いいよいいよ。どしたの?」
「友達と帰る約束してたんだ、言うの忘れてた」
祐也はそそくさとエナメルをかついで、私の頭をポンと撫でて教室を出て行った
こんなことなかったのに…
なんか、胸が苦しい
変なことしたかな…
ううん、気にしてもしょうがない
そんな日はおとなしくおうちで
たまってるドラマでも見よう
「希美ー?帰ろー」
振り向くと教室には希美もいなかった
残ってるのは啓くらい
「希美は?」
「知らねぇ、なんか用事あるとか言われた」
たまたま、だよね
ふたりのよからぬ想像ばっかりしちゃうんだけど…
なにかを暗示しているように、胸の鼓動が早くなる
最近あの二人がより一層仲良くなってる気がするし
Lineのトーク履歴にも希美が常にいるし
考え始めるとどんどん出てくる
「顔色悪くね?祐也に置いてかれて具合まで悪くなっちまったか?」
啓は多分冗談だったんだろうけど
なんだか核心を突かれたみたいで、胸が痛い
「置いてかれて…ないし」
教室を飛び出して、走った
人にぶつかっても
信号も
何もかも見ないで走った
信じたくないから、希美を信じたいから
祐也を信じたいから
――――――――――ズキッ
「んっ…!」
突然心臓が痛み出した
原因は分かっている。
走ったから
病院をサボっているから
でも、おかしいな…
最近は蓮お兄ちゃんに内緒で体育やってるけど
こんな発作なかった…
誰かにバレないうちに帰らないと
少し落ち着いてきて、立てるようになった
「こーだよっ!こう!!」
「マジで?!できるかなー」
聞きなれた会話の声が曲がり角から聞こえてきた
体から何もかも抜けていく気がした
この声は絶対
ふたりだ…
なんとか空き地に行って、遠くから待ち伏せしていると
見たくない光景が繰り広げられていた
祐也と希美は手をつないで歩いてきた
そこで私の記憶は一旦途切れて、記憶は夜に再開した
「オン…ネオン!!」
重いまぶたを開けると目の前には啓がいた
もうあたりは真っ暗だ
いつの間に寝てしまったんだろう
「啓…なにして」
「こっちのセリフだよ。こんなところで」
そりゃそうだ
空き地の土管の後ろで眠っていたのだから不思議にも思う
「なんかあった?」
「ないし…」
「嘘つけ」
「ないって言ってんじゃん…」
「ひとりで悩んでんじゃねぇよ」
その言葉に心の弱い壁は崩れた
普段そんなこと言わないくせに
啓はずるい
涙が一粒落ちると
止まらなくなった
「とりあえず。俺はここにいてやるから…」
啓は隣に座って手を握ってきた
薄っぺらい啓の手は
なんだか、今はたくましく思えた