鐘つき聖堂の魔女
(こんな時はいつも鐘つき聖堂に行って泣いてたっけ)
あそこは一人きりになれる大切な場所だ。
けれど今はライルと二人なので耐えるしかない。
「家に帰ろうか」
ライルはそういって下を向いているリーシャの手を取って歩き始める。
リーシャが顔を上げるとライルはすでに前を向いていた。
夕暮れ時の帰り道、皆が興奮冷めやらぬ様子で演目について語り合う中、ライルとリーシャは無言で大通りを歩く。
途中、店に預けていた食材を受け取る間もライルはリーシャと目を合わせなかった。
察しの良い人だから気を遣わせてしまったのではないだろうか。
リーシャはライルの大きな背を見つめながら、申し訳ない気持ちになった。
いつしか人の数もまばらになった頃、握られる手が少し強くなった。
「今日はリーシャの好きなものを作ろう」
何の脈絡もなくそういったライルにリーシャは胸がきゅっと締め付けらた。
「ポトフ…食べたい」
「了解」
顔は見えなかったが、ライルは小さく笑っていたように見えた。
この日、家に帰るまで二人の間には会話はなかったが、リーシャにとってその無言の時間でさえ心地良いと感じる時間だった。