鐘つき聖堂の魔女

◆初めての友達は師匠



休みが明けて暫く経った昼時、リーシャは支給される食事を前にして溜息を吐いていた。


「リーシャ、今日はお弁当忘れたの?」

リーシャの食事を覗き込んだ魔女がそういった。

ここ最近、ライルの弁当を持ってくることが周りにも定着してきたため、目立ったのだろう。



「サラ…そうなの。今日は寝坊しちゃって」

昨夜はライルの帰りが遅く、疲労の色が残る顔で寝ていたため起こさなかった。

そのため今日はライルお手製の弁当はない。

しかし、弁当を作ってくれる人が朝寝坊をしたから、などと答えるわけにはいかなかった。



「リーシャが寝坊なんて珍しいこともあるものね。けどたまには手を抜いても良いと思うわ」

そういって艶やかな長い髪をなびかせて去って行ったのは魔女の中でも珍しいママさん魔女だった。

サラには一人娘がおり、女手一つで育てている。

朝から遅いときは夜まで勤め、家に帰ると母親としての仕事が待っている。

考えただけで目が回りそうな日々をおくっているのにサラはそれをおくびにも出さない。

そんなサラが毎日弁当を作ってきていると勘違いをして励ましてくれたことにリーシャは罪悪感を覚えた。



そして、ふと昨夜疲れて帰ってきたライルを思い出す。

明らかに疲労の色を滲ませているのに、大丈夫かと問いかけると、すぐにいつも柔らかい笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と答えるのだ。


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