鐘つき聖堂の魔女
上官の命令には決して背かず、生真面目な性格のドナだが、ノーランドに対してだけは食って掛かる。
「当面の目標は私たちについてこれるほどの馬術を身につけること、いいわね?」
「分かりました。いずれはライル様に剣術を指南いただき、ドナさんをお守りできるように頑張りますね」
よくもまぁなおざりに扱われてこんな惚気た台詞が吐けたものだと感心したくなる。
しかし、こんな遠回しな告白では鈍感なドナには伝わらない。
「ノーランドに守ってもらわなくても自分の身は自分で守れます。あなたは自分の身だけ心配してればいいの!」
「はい。でも心配なので」
柔らかい笑みを浮かべながらも全く引く気のないノーランドにドナはあからさまに口を曲げて不機嫌をあらわにする。甘い雰囲気もぶち壊しだ。
にもかかわらず、ノーランドはにこにこと嬉しそうに笑う。
ノーランド曰く、ドナが自分のことで怒れば怒るほど嬉しいのだそうだ。
犬も食わない喧嘩とはまさにこのことで、食傷気味の溜息を吐かざるを得ない。
「お熱い夫婦漫才もいいが、今日の目的を忘れてないか?」
「ふっ…夫婦!?」
「そうでした」
“夫婦”という単語に敏感に反応して訂正の声を上げるドナに対して、ノーランドの切り替えは早い。
「開店までしか時間はありませんから本題に入りましょう」
先ほどのむかつくくらい幸せオーラ満載の笑みから一転して硬い表情をするノーランドにドナは戸惑うが、その真摯な表情に押されていつも黙り込むのだった。