鐘つき聖堂の魔女
「実は怪我が完治してから暫くドナさんと街へ調査に出回っていました」
「それで、“古の魔女”の情報は取れたか?」
「いいえ、確たる情報は得られませんでした」
「そうか」
ぽつりと一言だけ呟いて黙り込んだライルにノーランドは苦い顔をする。
「申し訳ございません。ライル様が古の魔女に呪いをかけられてから早九年。何の手がかりも得られないまま呪いが身体を蝕んでいるというのに、未だ尻尾もつかめないなど…」
「何もお前たちを責めているわけではない。この広い世界でたった一人の、しかも魔女を探そうとしていること自体無謀なことだ。俺も旅をする前から覚悟していたことだ。気にすることはない」
七つ国からなるレイアードの大陸は一年あってもまわりきれないほどに広い。
そんな広い世界で姿を変えることができる魔女を探すことは砂漠に咲いた花を探すようなものだ。
「それにこれは俺が背負った呪い…否、戒めのようなものか」
ライルは背中に手をまわしながら自嘲気味に笑い、吹っ切るように溜息を吐く。
そして自分に呪いをかけた魔女…“古の魔女”に思いを馳せた。
古の魔女とは名の通り、魔女たちの始祖にあたる魔女のことだ。
とある国で生まれた彼女は生まれながらにして不思議な力を持っていた。
その噂はたちまちレイアード中の国々に広まり、彼女ははじめて自分の存在が人間ではないと悟った。