鐘つき聖堂の魔女


「レット、だめ。起きちゃうでしょう」


リーシャは慌ててベッドに駆け寄り、男を踏みつけるレットを持ち上げた。

一瞬、男が起きたのではないかと思ったが、男は未だ夢の中だった。

男が起きないのも無理ないのかもしれない。

昨夜、家に帰って男の容態を診たところ、体中の血が沸騰しているのではないかというほど体温が高かったのだ。

風邪か熱中症か定かではなかったが、あれほど消耗していては暫く起き上がることはできないだろう。



リーシャはレットを床に降ろし、男の額に置かれた生温い布を取り換える。

ベッドに寝かせる時に上着と頭に巻かれていた布を取らせてもらったのだが、改めて見ても男の顔は整っていた。
金色の髪は絵本に出てくる王子様のようで、精悍な顔つきは眠っていても色っぽい。

瞳の色は何色なのだろうか、と久々に持ち合わせた人への関心に浸っていると、衣服の端を引っ張られる感覚で我に返った。

リーシャは衣服を引っ張った犯人を見て、クスッと笑う。




「はいはい。分かったから」

リーシャはレットを宥めながら銀皿を持って台所へ向かった。

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