鐘つき聖堂の魔女


「俺もお前みたいなやつは大嫌いだよ、リーシャ。魔女は魔女らしく陰で暮らしていればいいものの…」

ロネガンはリーシャの頬を掴み、固定した。

リーシャはロネガンの手から逃れようと足掻くが、やはり力では及ばず、動けなかった。

力を使おうにも先ほどの消魔石によって全ての指輪の効力が切れたようで、この場を乗り切るためには本格的に魔法を使うしかない。

魔法を使うことによって更に観衆を驚かせてしまうだろうが、この状況のままよりは良い。思うや否や、懐に隠していた杖を取り出し、振りかざそうとした時…―――




「リーシャ!」

聞き覚えのある声がリーシャの名を呼ぶ。

普段は落ち着きのある心地よいテノールが心なしか焦っているようにも感じた。

リーシャが視線だけを声の聞こえた方へ向けると、観客をかき分けて走ってくるライルがいた。





「ライ…ル……」



リーシャはライルを視界に入れた瞬間、穏やかだった心がまたざわつき始める。

観衆に魔女だと知られてもすぐに心を鎮められたのに、ライル相手には小刻みに呼応する心臓がなかなか鎮まってくれない。




「ほう、もしかしてあれは新しい恋人か?」

ロネガンはライルに視線を向けながらリーシャの耳元で囁く。

耳の鼓膜を揺らす低い声は同じ男の声でもライルとは随分違い、嫌悪さえ感じる。




「あーあ、お前の正体ばれただろうな。金髪から黒髪だもんなぁ」

ゆっくりと頭に叩き付けられるように並べられる言葉はまるで悪魔の囁きだった。


< 164 / 180 >

この作品をシェア

pagetop