鐘つき聖堂の魔女
いくら鈍感な人間でも、リーシャの姿を見れば魔女だと分かるだろう。
リーシャは絶望的な気持ちを抱きながら観衆の輪から出てきたライルから逃げるように俯いた。
「リーシャを放してくれないか」
ライルは恐ろしいくらいに静かに口を開いた。驚きもせず、嫌悪もなく、ただ静かな怒りを湛えてロネガンを見据えた。
その挑発的な視線を受け、リーシャとライルの間に何かしらの関係があると踏んだロネガンはニヤリと口の端を持ち上げて笑った。
「おー怖い怖い。お前の恋人がこっちを睨んでるぜ。まさかお前また自分の正体を偽って付き合ってたのか?懲りないやつだなぁ」
「ッ……」
付き合ってはいない。恋人でもない。けれど、自分が魔女であることは隠し通した。
この生活を始めるうえでお互い秘密にしていることはあるわけで、魔女であることをいうつもりもなく、ライルが家を出ていくその日でさえ“人間”のままのリーシャでありたいと思っていた。
それはどこか心の隅でどんなに優しいライルでも魔女であることを知れば離れていくと思って怯えていたからかもしれない。
魔女だと知られたくないと思いながら、一方では魔女だと知って欲しい気持ちがせめぎ合う。
しかし、結果は現実を物語っているものだ。ロネガンが良い例ではないか。
ライルはきっとリーシャを責めることはない。リーシャはそれが分かっているからこそ次の行動を打たねばと思った。
「…………らない…」
「何だって?」
俯いたまま呟いた声はか細く、喉の奥から絞り出すかのように苦しそうだった。